◉「陰陽輪環の順読」について

 十七条憲法を、第一条から順番に読み進めていったときに、どうして条文がこの順番に並べられる必要があったのかと疑問を感じられたのは、私だけではないと思います。

 しかしながら、当小論で採用したように、9条→10条→8条→11条→7条→12条→6条→13条→5条→14条→4条→15条→3条→16条→2条→17条→1条の順に読み進めていくと、不思議なことに、自然な流れで条文の内容が読み取ることができるように感じられるのです。

 こうした解読法を採用することによって、多くの実用的な手引書が、比較的容易なことから順序立てて、前後の関連性をもって次第に説かれていくのと同様に、十七の条文が読み取られてきます。

 

 先に引用した中村元氏の文献には、「天道は九をもって制し、地道はハをもって制し、人道は六をもって制す。天をもって父と為し、地をもって母と為し、もって万物を開き、もって一統を総ぶ(すぶ)」という『菅子』の一文が紹介されていました。

 そこで、そのなかにある「人道は六をもって制す」から着想を得て、十七条憲法を更に6項目の条文群に分類し直し、これらの条文群を、冠位十二階に見られる6つの徳目に重ね合わせてみました。

そうすると、

智 … 9条・10条

義 … 8条・11条・7条

信 … 12条・6条・13条

礼 … 5条・14条・4条

仁 … 15条・3条・16条

徳 … 2条・17条・1条

という6つの徳目に、17ある条文が規則立ったかたちに収まっていきました。

 

 こうした解読法を、筆者のこじつけと思われる向きもあるでしょう。しかしながら、この解読法を採用することによって、十七の条文が筋道だったものとして読むことができるようになったことは、筆者の取り組む「十七条憲法の心を読み解く」という試みにおいて、大きな実利を齎すものでした。十七条憲法の内容を解読するという目的においては、このような解読法を採用することが、筆者にとっては間違いなく有効なものだったのです。

 

 数学の分野の用語になりますが、「輪環の順」という言葉があります。循環することを意識して、規則性をもって読み解きやすく配置し直した数式の書き方のことを言うようです。

 筆者の独創ではありますが、十七条憲法を「循環する規則性をもって配置しなおす」この解読法を、道教の「陰陽(いんよう)」と数学公式の「輪環の順」になぞらえて、『陰陽輪環の順読(いんようりんかんのじゅんどく)』と称することとさせていただきました。

 

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