⑦ 仁の世界観・徳の宇宙観

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◉そして〈徳〉のコスモロジー

 ここまで、智→義→信→礼→仁の順に段階的に章立てして、十七条憲法を読み解いてまいりました。しかしながら冠位十二階には〈仁〉の階位の上に、更に〈徳〉の階位が置かれていることの根拠についても、言い述べておかなければいけません。

 

 地球という空間があってこそ、天上に向けて《幹》が伸び、《枝》が広がり、大地に《根》が張っていきます。太陽の光を受けて、雨の潤いがあるからこそ、成長して、花を咲かせ、実を付けることができるのです。やがて風が吹けば、種は土へと落ちるでしょう。そして、土の中から種は芽を出し、成長していくでしょう。

 自然の循環に調和してこそ、一本の樹に生命が息づき、年輪を重ねていくということです。その全体性に気付くことによって、はじめて完全なる〈徳〉が得られるということです。

 

 一本の樹が育つ大地は、ひとつの地球に他なりません。そして、天を仰げば空はひとつにつながっています。宇宙にまで意識を広げてみれば、太陽系の天体は一時として止まることなく法則的に運行し、それに伴い地球には、昼と夜とが交互に訪ずれます。

 春夏秋冬の季節の巡りのなかに、万物の生成があります。諸行無常・諸法無我の法則のもとに、無限無辺、相依相関の運動が繰り広げられ、そうした時空のなかに、一本の樹が立っています。

 

 

 狭くて小さな思い込みのような世界観に閉じ込もるのではなく、より大きな視点で物事を把握して、主体的な意志をもってそれに関わっていくこと。儒教的な〈仁〉の世界観を含みつつ越える、仏教的な〈徳〉の宇宙観を保つべきであること。

 太子が理想とされたのは、果てしなく広がる無限のつながりのなかにある和らぎの共同体であったことが、〈徳〉の章に示されます。

 

 

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