何事にもお互いを信頼して事に当たれば何でも出来ると、信じていたいものです。けれどもやはりそれは理想でしかなくて、現実の世間はそう上手くいかないものだと思います。

 皮肉な現実ではありますが、私たちの生きる世間には良いことばかりではなく、悪いことも必ずあって、成功することばかりでなく、失敗することも、同じ分だけあります。それはやはりどうしても、何事も真心で行われることばかりではないからなのだと思います。

 

 何事においても、二心なくただ一心に、誠実さをもって取り組まれていることばかりかというと、そんなことはありません。この世間においては、大体のことはいい加減な成り行きで行われ、その上に損得勘定まで働くものです。

 損と得をはかる私たちの心は、二心そのものです。自分の価値基準で二つに分けて、それを比べて得を取ろうとするようなやり方は、自分では意識していなくても、当たり前のように私たちがしていることです。

 

 ひとそれぞれに大切にしている「ほんとうのこと」があるでしょう。けれども、自分の「ほんとうのこと」を第一にして、それ以外は適当に流しているということがほとんどでしょう。

 さまざまな価値観が混在してある人間社会においては、「ほんとうのこと」は一つではなく、ひとの数だけ「ほんとうのこと」があって、決してそれは一様ではありません。

 ひとそれぞれに信じる「ほんとう」が、くい違ったり、すれ違ったり、かけ違ったりすることは、よくあることだと思います。自分が大切に思っている「ほんとう」を蔑ろにされたりすると、誰でも感情を害します。

 そんな世間の有り様と、そこから起きる人間関係の問題について、続く後段の[第十条]には、こう指摘されます。

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