昨今では「終活(しゅうかつ)」への関心が高まっていて、雑誌や書籍やインターネットなどでも様々な情報を得ることができます。人生の最期を迎えるにあたっての身の回りの整理、財産の相続を円滑に進めるための計画、葬儀や仏事の準備など、そこでは様々な指南がされていますが、意外と取り上げられることが少ないのが「祭祀財産(さいしざいさん)」つまりはお仏壇やお墓についての法規定に関する事柄です。

そこで、慶集寺にご縁のある坂林加奈子 弁護士 (富山みらい法律事務所)に「祭祀財産」に関する事柄についてお聞きしてみました。今後の仏事承継について考えていくための参考にしていただければ幸いです。

慶集寺住職(以下KJ) ちょっと前までは、お墓やお仏壇に関する法律なんて、あることさえ知らないでお参りしていました。

坂林弁護士(以下SB) はい、被相続人が残した預貯金や不動産などの相続財産は相続人に分与されますが、お墓やお仏壇は「祭祀財産(さいしざいさん)」として「祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)」に選ばれた方が承継することが、民法897条1項に定められています。

祭祀財産とは、系譜(家系図など)、祭具(位牌や仏壇や神棚など)、墳墓(お墓など)のことをいい、神仏や先祖を祀るために必要なものです。これらの祭祀財産は、通常の「相続財産」とは区別され、相続財産の中に算入されません。このため、相続財産には一定の場合に相続税がかかりますが、祭祀財産には相続税等の税金は一切かかりません。

また、相続財産は原則として複数の相続人の間で分割して取得されますが、祭祀財産は基本的に1名に受け継がれます。この祭祀財産を受け継ぐ人を「祭祀承継者」と呼びます。

KJ では、基本的に1名とされている「祭祀承継者」は、どうやって決められるものなのですか? 

SB 祭祀承継者は祭祀財産を引き継ぐだけでなく、祭祀を主宰する(葬儀や法事などを代表して執り行う)責任のある立場でもあります。このため、祭祀承継者は「祭祀主宰者(さいししゅさいしゃ)」と呼ばれることもあります。祭祀承継者は祭祀財産を引き継ぐことによって、先代から代替わりをして、葬儀の喪主となり、法要の施主となって、祭祀を主宰することとなります。

民法では、祭祀承継者について、第1に被相続人の指定により、第2に慣習により、第3に家庭裁判所の審判により定めることとしています。特に被相続人の指定がなければ、慣習に従うこととなりますので、葬儀の喪主になった方が、祭祀承継者となるのが通例です。

ただし、上記のとおり、被相続人が祭祀主宰者や祭祀承継者を指定している場合には、慣習よりも被相続人による指定の方が優先されます。たとえば、ある家では代々長男が祭祀を承継するのが慣習であったとしても、被相続人が、配偶者や二男や孫などを祭祀承継者として指定していた場合は、その方が祭祀承継者になります。祭祀承継者の指定は、遺言書以外の文章や口頭による指定でも可能です。

被相続人による祭祀承継者の指定もなく、祭祀に関する慣習も明らかでない場合には、管轄の家庭裁判所の審判により祭祀承継者を指定してもらうこととなります。関係者間での協議が難航、決裂した場合には家庭裁判所に判断してもらうほかなくなるということです。

KJ 葬儀の喪主や法要の施主となる「祭祀主宰者」と、お墓やお仏壇の管理者となる「祭祀承継者」は同一でなければいけないのですか?

SB 通常であれば「祭祀主宰者」と「祭祀承継者」は同一のことが多いと思いますが、必ずしも同一でなければいけないことはありません。家族や親族など、祭祀財産に関わる方々による協議の上の合意であれば、その他の縁者や友人であってもよいということになります。

 

KJ 昔であれば、喪主や施主は長男が務めるものだし、それに伴って仏壇やお墓も長男が引き継ぐのが当たり前とされていたと思うのですが、現行の法律ではそういった決まりはないのですね。

SB はい、指定や協議によって決められた方であれば、どなたが喪主や施主になられても、仏壇やお墓を引き継がれても、問題はありません。

 

KJ 代々引き継がれているお墓やお仏壇を所有しているのはいわゆる「本家」にあたる家であって、いわゆる「分家さん」の場合には、お墓もお仏壇もまだお迎えしていないことが多いと思います。

SB 確かにそうなのですが、どなたかが亡くなられたときのご遺骨は、祭祀主宰者に帰属するというのが判例であり、「祭祀財産」に準じて扱われます。ご葬儀の際に喪主になられる方が祭祀主宰者となって、その後の祭祀承継者にもなって、ご遺骨の管理やお参りをされるという流れになります。

KJ なるほど、ご葬儀の際の喪主になるということは、その後にはご遺骨を納骨してご法要をお勤めする立場にもなるということなので、祭祀承継者としての役割が継続することになるのですね。

 

SB お墓やお仏壇であっても、ご遺骨であっても、祭祀承継者としてそれを管理する役割に選定された人は、基本的には承継を拒否することはできません。この点については、相続したくない場合に相続放棄ができる一般財産とは異なります。

祭祀財産の承継は拒否できないものの、祭祀財産をどう取り扱うかは、基本的に祭祀承継者に委ねられます。そのため、仏事や法要をお勤めしなかったり、お墓の管理を怠ったり、祭祀財産を独断で処分したりされるようなことがあると、関係者の間でトラブルになる可能性もあります。被相続人がどなたか1名を指定する前に、ご縁の方々で十分に話し合っておくことが大切です。

 

 

KJ 祭祀承継者(祭祀主宰者)は相続の際に優遇されることはありますか?

SB 祭祀財産は、一般的な相続財産とは区別されるものです。祭祀財産の維持や管理、祭祀の実施などには費用がかかるのが通常ですが、それらの費用は、祭祀承継者が負担するのが原則になります。けれども祭祀財産に費用がかかるからといって、遺産分割において優先的な分割が受けられるものではありません。 

相続財産は法定相続分に基づいて分与されることが基本となっていますが、祭祀財産を承継することの負担はそこに含まれていません。どなたかに祭祀の承継を希望するのであれば、被相続人やその関係者が、祭祀承継者(祭祀主宰者)が引き受ける負担に配慮することは大切ですね。

 

KJ お墓やお仏壇は複数の相続人で分けることができないような財産だから、祭祀財産として一般の財産とは分けて考えられているということですよね。それでしたら土地や建物などの不動産も、祭祀財産と同様に基本的には分けることのできない財産です。仏壇は家に付随してあるものなのだから、祭祀承継者になられる方が、併せて家の土地や建物を相続するのが、自然なのではないでしょうか?

SB そのようにされる例は多いですね。けれども後々の問題とならないように、相続人全員に事前に周知しておく必要はあるでしょう。土地や建物がいわゆる「負の財産」になる場合もありますので、それを引き受けることへの配慮もしておく必要があるかもしれません。

法律的に有効な方法で遺言書を作成しておくことで、相続に関する後々の問題を事前に防ぐことができますが、法律で定められている「遺留分(※文末をご覧ください)」に配慮したうえで、その内容を考える必要もあると思います。

被相続人として遺言をされる場合にも、相続人の間で財産分与の協議をされる場合にも、人それぞれの立場を考えて、お互いに思い遣りをもって話し合いを進めていくのが、とても大切なことだと思います。

KJ 後に遺された人たちが困らないように、一般の財産に関しても祭祀財産に関しても、事前に整理をしておくのは大切なことだと思いました。まずは自分の希望や思いを書き留めておくことからでも、いまの私にも出来ることから始めてみようと思います。

 

SB エンディングノートや遺言書等に記録を保存しておくことは、後々の問題回避のためには重要だと思います。けれどもそれと同時に、家族や親族で、家のお仏壇をどうしていくか、お墓をどうしていくか、それに伴って土地や建物の名義をどうするかなど、普段から話し合っておくことも大切だと思います。

 

KJ 本当にそう思います。けれども普段からそんなことを話し合うというのも、なかなか出来ないことのように思いますし、みんなが顔をそろえて集まる機会も、昔ほどには無いように思います。

だからこそ、四十九日の納骨の際や、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌などの年忌法要は、ご縁の方々が一堂に会する大事な機会になるのではないでしょうか。そういう時にこそ、これからのことについてみんなで話し合って、みんなで共通の認識を持つようにする、よい機会になるのではないかと思います。

 

SB そうですね。私もそう思います。

 

 

※遺留分とは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人に対して最低限保障される遺産取得分をいいます。被相続人の兄弟姉妹以外の相続人には、相続開始とともに相続財産の一定割合を取得しうるという権利(遺留分権)が認められます。また、子の代襲相続人にも遺留分権は認められます。遺留分は様々な条件によって割合が異なることとなりますので、詳しくは法律の専門家にご相談ください。

 
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