次に、ブッダが四方に向かわれたということは、直接的には東西南北の四つの方角を指していますが、その意味は自分を中心としての四方八方の全方向ということで、それはすなわち「あますところなく全ての場所空間」ということを表しています。

私たち人間存在はどうしてもこの肉体から離れることができず、その意識はあまりにも狭く限定されています。しかしブッダは、この世に生きながらも人間としての意識の限界を超越し、世界の細部から全体に至るまでのあらゆるものの全てを見渡し、生きとし生けるものの全てを分け隔てなく、差別することなく平等に見つめていたということなのです。

すなわち「四方に向かう」ということは、ブッダの限りなく広大で超越的な視野から外れる存在は、何ひとつ無かったという意味なのです。


生まれてすぐに七歩あゆみ出し、東西南北の四方を見渡されたブッダは、
右手で天を左手で地を指差し、こう宣言されました。

「天上天下唯我独尊。三界はみな苦にして我まさにこれを安んぜんとす・・・
生きているかぎり苦しみや悩みから逃れられないでいるこの世のすべての者たちに、真の安らぎを与えようとして、私はこの世に生まれてきました。これは私の使命であり、このためだけに私は生まれてきました。この世界でただ一人の尊い存在として、皆を救うために、私は生まれてきました」


ブッダの教え「仏教」とは、苦しみや悩みを持たずにはいられない、迷いながらにしか生きることのできない、そういう根源的な性質を持つすべての人間存在に対し、全く平等に開かれた「心の平和の教え」なのです。 そしてそれは、この世で悟りの境地を得るに至ったブッダが、その全存在をかけて私たちに伝えようとする「永遠の真実の教え」なのです。

四方七歩の宣言はそうしたメッセージを、暗に私たちに伝えようとしているのです。




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