【 第十条 】
 他者に寛容であるように

心の中の怒りをしずめ、表情に怒りをあらわさないようにしましょう。

相手が逆らってきたとしても、激怒しないようにしましょう。

人にはみなそれぞれの心があり、その心には各々にこだわるところがあります。

相手が正しいと考えることを自分は間違っていると考え、自分が正しいと考えることを相手は間違いだと考えることは、よくあることです。

しかしながら、必ずしも自分が聖者なわけではないし、また必ずしも相手が愚者なわけでもありません。

お互いただの「人間」にすぎないのです。正しいこともあれば、間違っていることもあるのです。

お互いに賢くもあり愚かでもあるのは、鋼のリングのどこが始まりでどこが終わりなのか、端がないようなものです。

だからこそ、相手がどんなに怒っていてもそれに対して感情的に返すのではなく、自分に過失がなかったかどうかを、理性的に省みてみましょう。

 

また、どんなに自分の考えが道理にあっていると思っても、多くの人々の意見を尊重して、協同した行動をとるようにしましょう。

寺院の運営にとって、独善的であることは、けしてよいことではないからです。

 

 

鏡に移った自分の顔が、自分の顔そのものなわけではありません。左右は反対に映るものだし、自分が鏡で見ている時ほど、いつもすました表情でいるわけではありません。

自分の本当の顔は自分には見えません。自分のことが、自分にとって一番気付きにくいものなのです。

自分を正当化しようとする悪い癖は、どんな人にもお互いにあって、なかなか改めにくいことなのでしょう。

冷静になって、客観的にものごとを見てみることで、状況は改善されるはずです。自分の方から寛容であるように、心掛けていきたいものです。

 

 

【 十七条憲法・第十条 】

[原文]
十曰、絶忿棄瞋、不怒人違。人皆有心。々各有執。彼是則我非。我是則彼非。我必非聖。彼必非愚。共是凡夫耳。是非之理、詎能可定。相共賢愚、如鐶无端。是以、彼人雖瞋、還恐我失。我獨雖得、從衆同擧。

[書き下し文]
十に曰く、こころのいかり〈忿〉を絶ち、おもてのいかり〈瞋〉を棄てて、人の違うことを怒らざれ。人みな心あり。心おのおの執るところあり。かれ是とすれば、われは非とす。われ是とすれば、かれは非とす。われかならずしも聖にあらず。かれかならずしも愚にあらず。ともにこれ凡夫のみ。是非の理、たれかよく定むべけんや。あいともに賢愚なること、鐶(みみがね)の端(はし)なきごとし。ここをもって、かの人は瞋(いか)るといえども、かえってわが失(あやまち)を恐れよ。われひとり得たりといえども、衆に従いて同じく挙(おこな)え。

[現代語訳]
心の中で恨みに思うな。目に角を立てて怒るな。他人が自分にさからったからとて激怒せぬようにせよ。 人にはそれぞれ思うところがあり、その心は自分のことを正しいと考える執着がある。他人が正しいと考えることを自分はまちがっていると考え、自分が正しいと考えることを他人はまちがっていると考える。しかし自分がかならずしも聖者なのではなく、また他人がかならずしも愚者なのでもない。両方ともに凡夫にすぎないのである。正しいとか、まちがっているとかいう道理を、どうして定められようか。おたがいに賢者であったり愚者であったりすることは、ちょうどみみがね〈鐶〉のどこが初めでどこが終わりだか、端のないようなものである。それゆえに、他人が自分に対して怒ることがあっても、むしろ自分に過失がなかったかどうかを反省せよ。また自分の考えが道理にあっていると思っても、多くの人びとの意見を尊重して同じように行動せよ。

[英語訳]
10. Let us cease from wrath, and refrain from angry looks. Let us not be resentful just because others oppose us. Every persons has a mind of his own ; each heart has its own learnings. They may regard as wrong what we hold as right. We are not unquestionably sages, nor are they assuredly fools. Both of us are simply ordinaly men. Who is wise enough to judge which of us good or bad? For we are all wise and foolish alternately, like a ring which has no end. Therefore, although others may give way to anger, let us on the contrary dread our own faults, and though we may be sure that we are in the right, let us act in harmony with all others.

出典:中村元 著『 聖徳太子 地球志向的視点から 』(東京書籍)THE SEVENTEEN-ARTICLE CONSTITUTION by Prince Shoutoku Translated into English by Hajime Nakamura

 

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