6月26日(金)

今日の朝日新聞、天声人語より。以下。

裁判長は、最後に言った。「たとえ親であっても、高齢者であっても、人を殺してはいけません。同情はしますが、法はあなたの行為を許しません」▼
おととい愛知県の裁判所で、九十六歳の母親に懲役三年の実刑判決が言い渡された。重度の知的障害者だった六十三歳の四男と無理心中をはかり、殺人の罪に問われていた。母親は相当耳が遠い。裁判長はマイクを握り、車いすに乗った母親のそばにはスピーカーが置かれた▼

四男が生後六カ月のころ、母親は彼をおぶったまま自転車で転んだ。その後、知的障害があると診断された。小学校は二年遅れで出た。転んだせいだと母親は思い続けた。三十六歳のとき施設に入った。夫と死別した母親は、面会日には欠かさず息子を訪ね、盆や正月は自宅に迎えた▼

母親は八年前に長男一家と同居した。体が弱くなっていた。遠慮が先に立ち、四男の帰省期間を短くした。できるだけ自室で、二人だけで過ごした。去年の暮れ、正月を一緒に過ごすため、長男が車で四男を連れ帰った。元日、母親は四男と二人だけで夕食をとり、自室に戻った▼
息子の寝顔を見ながら「体が衰え、面倒を見られなくなるのではないか」「自分が死んだあと、一人だけ残しても仕方がない」などと思い悩んだ。翌早朝、寝間着の腰ひもで首をしめた。それから遺書を書き、自分も同じ腰ひもで首をつった。だが死にきれなかった▼

実刑について判決はいくつか理由をあげた。四男の将来に経済的な心配はそれほどなかったこと。彼の施設は死ぬまで入所できたこと。本人は簡単な身の回りの世話はできたし、周囲に迷惑もかけなかったこと。母親がだれにも相談しなかったこと▼
「あえて殺害する切迫した状況ではなかった。息子がもっとも信頼していた母親が、命を私物化した。動機は独りよがりだ」。判決はそう断じた。

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