第一章の四 伝道・ブッダの願い

菩提樹の下で悟りを開き「ゴータマ・ブッダ(ゴータマという名の目覚めたる人)」となられたシッダルタは、真理に到達した無上の悦びに浸り、しばし至高の瞑想に時を超えていましたが、やがて自らが目覚めた永遠の真実を世間の人々に伝えようと決意し、ヴァラーナシーという地域にある鹿野苑と呼ばれる場所へと出かけていきます。この土地は宗教者や学者の多く集まるところであり、シッダルタが以前身を投じていた苦行林での修業者たちもそこにはいました。シッダルタは、その地で再会したかつての五人の修業仲間に対し、ついに最初の説法を行うことにしました。自分自身で悟りを開いたというシッダルタに最初は疑いを持っていた五人でしたが、その超越的に威厳ある存在感と、そこで語られた言葉の否定しようのない真実性に、やがては深く感動し、同じ目覚めを目指してブッダに帰依することとなったといいます。

この鹿野苑での最初の説法は「真実の教えの輪が転じ始めた」という意味で、「初転法輪」と呼ばれています。ここでシッダルタが自らの悟りを人々に伝えようと決意してそれを行うことがなかったならば、シッダルタの悟りは個人的な体験に止まり、この世界に仏教が広まることはありませんでした。

しかし、ここについに仏教は、終わることの無い教化伝道の連鎖を始めたのです。



前頁 次頁